赤いビタミンの話

 「下水汚泥から<金>、数千万円の収入」という事が最近TV・新聞で取り上げられ、下水道界は勿論、社会的にも話題に上っている。実は下水汚泥の中には色々な<お宝>があることはかなり昔から知られていた事である。そのお宝の一つで、<金>程ではないものの、実現すれば世間を「アッ」と言わせたであろう物について紹介したい。  

そのお宝は、赤いビタミンB12である。

 下水汚泥中(活性汚泥中)にビタミンB12が含まれている事がアメリカのHoover等によって発見され、アメリカの4都市の乾燥活性汚泥を調査した結果、乾物中に3∼4μg⁄乾物g程存在していると1951年(昭和26年)に発表された(Science,114,213p,1951)。

 我が国では京都大学工学部高田亮平教授が東京都、豊橋市、名古屋市、岐阜市、京都市、大阪市の乾燥汚泥を分析してやはり4∼8μg⁄乾物gのビタミンB12が存在する事を1953年(昭和28年)に「ビタミンNo.6,583p,1953」に報告した(鯱水、第4号、3p、昭和28年)。

 これを受けて名古屋市に於いては、名古屋工業技術試験所、大日本臓器研究所と共同して天白汚泥処理場に試験プラントを設け、活性汚泥からビタミンB12を製造する研究を続けた。ビタミンB12の精製工程が確立されているのにそれまで工業化されなかったのは、抽出工程の難しさのためである事が分かり、新しい抽出方法を検討し、昭和34年6月から9月にかけて試験をした結果、良い方法が見つかった。それは浸漬法であったが、これを連続的に行う為に汚泥と液を向流式で連続して接触させる方法を考案した(鯱水、第12号、高橋俊三、103p、昭和35年)。

天白汚泥処理場 天白汚泥処理場

 ようやく工業化の目処が立ちいよいよ世界でも初めて活性汚泥からビタミンB12の製造を始めようとする段階まで来た時、活性汚泥から製造するより安価で大量生産する方法が工業的に可能になってしまい、結局このプロジェクトは日の目を見る事なく終了する事になり、残念ながら幻のビタミンB12となってしまった。

 ビタミンB12は神経の機能維持に関与し、不眠や神経障害に有効で肩こり・腰痛の緩和、また赤血球の形成に役立ち、貧血に効果がある。豚レバー・魚の肝・魚肉や牡蠣・アサリ・帆立貝に多く含まれている。
 わが国は当時すべて輸入しており、貴重な物であった。

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天白汚泥処理場作業中の写真  [拡大写真表示]

天白汚泥処理場 天白汚泥処理場
天白汚泥処理場 天白汚泥処理場

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