テレビ電波と配水塔
東山配水塔は名古屋市水道の第三期拡張事業で東山町、田代町などの地盤が高く配水困難な地域に配水するために昭和5年に建設されたもので、名古屋市人口百万人達成記念の一つでもあり、大々的に完成祝賀会が催された。
配水塔位置図(Yahoo地図より作成)
戦後、名古屋市東部は区画整理事業が進展して都市化が進み水道の需要が増大したので、猪高配水池をはじめ小規模の配水池や増圧ポンプ場などが建設され、さらにそれらが整理統合されていく中で、昭和48年2月に東山配水塔はその役目を終えたものである。
この配水塔は、地域の風景に溶け込み付近の人々に親しまれてきたこともあり、撤去するのも惜しいことから、耐震強度診断を経て災害時の応急給水塔として利用すると共に、見晴らしも良いことから展望台に改築することにしたのである。
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従来の形は水槽に円筒形の覆いが被せてある形式であったが、これを撤去して外側の張り出し部分いっぱいの位置に外壁を設け展望台にしたものである。
塔の上部はとんがり帽子の円錐形になり、従来とはムードも変わり情緒のある風景になったが、高くなった屋根のとんがり帽子の部分が問題を起こすことになったのである。
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それは、上野町の数軒の住宅がテレビの映りが悪くなったので、NHKに原因の調査を依頼したようだ。当時、テレビの映像障害があるとNHKに原因の調査を依頼していたのである。
その結果、中京テレビの映像がはっきり映らなくなっており、高くなったとんがり帽子にテレビ電波が遮られているというのである。
この事は水道局に伝えられ、局で共同アンテナを立てて補償して解決したが、多くの高い建造物のある市街地の中でとんがり帽子の三角屋根が原因だと特定されたことに驚きを感じた。
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大治浄水場の配水塔は、停電時の赤水の発生防止と給水量の確保のため昭和56年11月に建設されたもので、高さ36m、有効容量4700m3の規模の塔である。
この塔が完成した時、大治浄水場の北西の住宅から塔が出来てからテレビの受信障害が発生するようになったとして、NHKに調査の依頼があったようだ。
調査の結果、原因は大治浄水場構内にある排水処理施設棟によるもので、配水塔によるものではないと言う結論になり、この排水処理施設棟は住宅より以前に建設されているので、補償する必要はないということになった。
電波は目に見えるものではないが、意外に明快な結論を出すものだと感心したものである。
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猪高配水塔は、住宅地域内に大きな配水塔を造るとテレビ電波障害になるのではないかとの危惧があったので設計者がNHKに相談に行った。
この結果、塔の壁面を5度以上傾けるとテレビ電波を空に反射し住宅のテレビにはゴーストが映らないということだった。ただし、テレビ塔と配水塔を結ぶ線の真後ろは電波が満足に届かない場合があるので、問題がでたらアンテナを立てるなどの対策が必要であることを聞いてきた。
これを基に、塔は高さ48mの円筒形で、側壁は5度傾斜させているので下部は直径27m、上部は直径19m、容量4100m3の規模となり昭和59年に6月に竣工した。
壁面を傾斜させた結果、付近の住宅からは何も苦情がなく、まっすぐな円筒形よりも趣のある塔だと思っていた。
ところが、テレビ塔と配水塔を結ぶ線の真後ろにあたる住宅から、現場事務所に苦情が入ったのである。しかも苦情を申し入れた人は、暴力団風で現場事務所もその対応に大変困ったようで本庁に相談に来ていたが、2、3日後に別件でその人は警察に逮捕され、それ以後何も問題になるようなことはなかった。
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鳴海配水塔は名古屋市東南部の丘陵地域に配水するために造られた塔である。この塔は8200m3の中区と2200m3の高区の塔が一体となって建設されている高さ54mの塔で昭和57年に完成した。中区の水槽は猪高配水池塔と同じように傾斜させているので問題はないが、高区の水槽は円錐台を逆さにしたような(上部が広く下部が狭い)デザインになっており、中区とは逆に電波を地上に跳ね返す構造になっている。このため、壁面に電波吸収タイルを張ることになり、建設時にどの種類のタイルの効果があるのか現場で実験を行い、その種類を選択して張ったものである。
このように昭和50年代に建設した塔は、テレビの電波障害の対策を考えながら建設したものだが、その後、瀬戸市の地盤高108mの地点に高さ245mの瀬戸デジタルタワーが各局共同で建設され、電波アナログ方式からデジタル方式に変更されたのでこうした問題は起こらないようになったようである。
栗 田 資 夫