バーゼル

スイス地図
スイス地図

 アムステルダムやパリの他にも水源の確保に色々と工夫をしている都市も多くあるので代表的な都市を選んで文献を通して見てみたい。
 ライン川の河口から750km上流で水運でも要衝の地であるバーゼルというスイスの美しい街がある。この街はフランスと国境を接するグロース・バーゼルとライン川を挟んでドイツと接するクライン・バーゼルに分かれている。
 グロース・バーゼルでは当初ライン川に流入するビルス川の14kmほど上流のペルツミューレ渓谷・カルトブルンネン渓谷やアンゲンシュタイン一帯の40余の泉水を集水渠で取水して緩速ろ過ののち塩素消毒して給水していた。

バーゼル水道系統図
バーゼル水道系統図

 また、クライン・バーゼルでは,ライン川に流入するヴィーゼ川に沿うランゲ・エルレン森林の地下水を揚水して塩素消毒して利用していたが、両方とも都市の発展と共に量的に不足するようになった。
 このため、グロースバーゼルではライン川の水を揚水して、沪速120m/日で急速ろ過処理をした沪水をハルド森林の砂利層で出来た地下浸透池に送り300mないし500m離れた森林に掘られた多くの深井戸で汲み上げ人工地下水を得て水源として使用している。
 地下浸透池なる構造が良く分からないが、写真で見る限り4~5mの巾で深さは不明だが砂利で満たしたような水路状のようなものである。
 また、クライン・バーゼルでもライン川の水を揚水し、クラインバーゼルと同様に急速濾過処理をして、ランゲ・エルレン森林に送り、人工浸透地に流されて人工地下水が造られ揚水されている。

パリ源水水道取水場図
パリ源水水道取水場図

 さらに揚水された地下水は相互に結ばれた連絡管によって融通が図られ安定的な取水を図っている。
 地下での滞留時間は20~50日であり、塩素注入率はこれまでの泉水と同じ0.05ppmと給水栓残留塩素は0.01~0.02ppmで極めて良い水を確保している。
 バーゼルでは年間50回程度ライン川汚染警報が出て、その度に数時間しか取水できない日もあるが、地下での滞留時間20~50日の効果もあり、安定して良質な水道を得ることができている。
 このように、ここでは河川の水を一度急速濾過処理を行って森林に流し、自然の地層を利用する沪過によって浄化し水質の確保をすると共に、森林での貯留的効果も取り入れ、ライン川からの断絶を図ろうとしている姿勢が伺われるが、これは歴史的にライン川の危険さを十分知っているからだと思う。
 このような人口地下水を得る方式はライン川の沿線のみならず欧州の大河川沿線の複数の都市において行われているようであるが、すべての都市が同じ方法で行われているわけではない。

パリ源水水道取水場図
パリ源水水道取水場図

 河川から取水した源水を処理せずに直接森林に流し、揚水した人口地下水を活性炭沪過処理して塩素注入をし給水している都市や、河川の源水を自然の浄化を期待して数日間貯水池に貯留して森林に流し、人工地下水を得るなどする都市もあるようで、各都市によって異なる工夫が見られる。
 また、オランダのロッテルダムのように海抜0m以下の土地では付近で良質な地下水を作ることも出来ないので、40km離れた内陸部に巨大な貯水池を築造し、マース川の水を揚水して5~6ヵ月もの長期間貯留して、自然力で浄化した後、二つの浄水場に送水している都市もある。
 いずれにしても、西欧では清浄な水道水源を確保するため、汚染された河川水を創意工夫を重ね、地形や地質と自然の浄化力を利用して水道水源を確保している実態をみるとわが国の水道水源事情は恵まれていると言わざるを得ない。
                             

    参考文献    水道の文化  ―西欧と日本―  鯖田豊之         
       

栗田資夫