バーチャルウォーターから考える世界の水問題
私たちの住む地球は水の惑星といわれ表面の3分の2は水におおわれていて豊富な水に恵まれています。
その水量は約14億㎦もあります。
しかしながらそのほとんどは海水で飲み水や農業用水などの利用には適していません。また南極や北極の氷の状態のものも使えません。私たちが利用できるのは身近にある川や湖や地下にある水の一部しかありません。人間が使える量は全体のわずか0.01%の約10万㎦と推定されています。(下図 地球上の水の量)
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現在の地球上の人口は約77億人ですので単純に計算すると一人当たり約1万3千トンとなり、十分な量があるようですが問題は地球上に均等には水が存在していないことです。地域により降雨量も違い、その国の水の必要な量が異なるため各国の間にアンバランスが生じます。(下図 一人当たりの年降水量)
日本は豊富な水源に恵まれており、一部の地域で時により水不足が生じることはありますが他国と水の奪い合いになることはありません。
しかし現実には大量の水を外国から輸入しているのです。
その量は年間640億トンに及ぶといわれています。日本の年間水使用量は839億トンですから(2003年)これにほぼ匹敵する量の水を輸入していることになります。
水の輸入といえば思い浮かぶのは飲料水としてのミネラルウオーターですがその量は年間20万トンほどで、日本で製造されているペットボトル飲料の10%強とほんのわずかです。
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この640億トンは私たちの目に見える水の形で輸入しているのではなくバーチャルウオーター(仮想水)というものです。これは日本が輸入している農畜産物や工業製品を仮に国内で生産した場合に必要となる水の量を表すもので食料品を輸入するということはこの仮想水も輸入しているという考え方です。
バーチャルウォーターはロンドン大学のアラン教授によって1900年代初頭に提唱された考え方で農作物などの輸出入(移動)による水資源が足りない地域における水資源の節約や水資源の自給率向上の議論などで使用されます。
日本では東京大学生産技術研究所・沖大幹教授が仮想水の数値化の取り組みをしています。
試算によると、すべて輸入品で作られた牛丼一杯の仮想水には実に30トン以上の水が投入されていることになります。これは家庭のバスタブ200杯以上の量に相当します。ちなみにハンバーガー1個は1トンの仮想水が使われています。
食品別にみると重量当たりで牛肉は約2万倍、米は約3,600倍、鶏肉は約4,500倍、豚肉は5,900倍の水が必要になるそうです。牛肉の場合は成育までの時間が長く、その間の飼料を育てるために必要な水量を含んでいるために大きな数字になるようです。
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我が国の食料自給率は約40%であり、外国から食料を輸入するということは相手国の水資源に大きく依存していることになります。(右図 日本のバーチャルウォーター総輸入量)
日本の高い経済力で他国から水資源を仮想水という形で調達してきたわけですが今後世界各国の水の消費量はどんどん増加しており現在のような豊かな生活を続けるためには世界の水不足を念頭に置いて対策を講じなければなりません。
食料自給率の向上、効率的な海水淡水化の研究、輸入相手国の水資源管理への関与などを国レベルで進めることが不可欠ですが、微力ながら私たち消費者としては常にバーチャルウオーターを念頭に食品の廃棄率を可能な限り少なくすることが大切です。
参考資料 国土交通省「国際的な水資源への対応」、東京大学生産技術研究所ホームページ