アムステルダム~砂丘を利用した浄水処理~

 我が国は島国であり、周囲の海から流れ込む豊富な水蒸気は本州の背骨山脈にぶつかり雨となって降り、急峻な地形のため急速に海にむかって流れている。最長の河川の信濃川でも367㎞であるため、地中のミネラルも必要以上には溶け込まず、一般的に平野部に発達した都市部に良質な水道の原水を供給し続けてきた。

アムステルダムの上水道
アムステルダムの上水道

 一方、ヨーロッパ大陸では、最長の河川はドイツから黒海まで流れるドナウ川は2850㎞もあり、スイスアルプスから北海まで流れるライン川も1233㎞と長く、いずれも数か国を通過する国際河川である。また、多くの支流や中小河川が存在しそれらの河川が運河で結ばれ、生活用水としては勿論交通や物資の輸送に多く利用されてきた。
 このため下流の都市になると水は何人もの体内を通過した水だとも言われ、更に船舶等の往来により油類等も浮遊して汚染されていることが多い。
 こうした事から河川水は飲料水として利用するためには水質が悪い場合が多く、下流の多くの都市では水道水の原水として利用できない状態である。
 このため、それらの都市では水道水源を独特な工夫をして確保しているが、これまで実際に視察した都市の実情について述べそのアイデアに注目してみたい。  

砂丘地帯断面図
砂丘地帯断面図

 オランダのアムステルダムは干拓で出来た街のため、淡水は殆ど無く外部から運んでこなければならなかった。アムステルダムの西南にあるハーレムには北海から吹上げられた砂丘があり、1853年頃からここの不圧地下水を発見して取水し市内に給水していたが、約50年も汲みつづけると海水が侵入するようになった。
 しかし、さらにその下の地下に被圧地下水があることがわかり、1903年からこの地下水を取水していたが、また50年経つとここの水も取りつくし海水が上昇してきた。このため、近くにある河川水に頼らざるをえなくなったのである。
 ライン川はオランダ領に入りヴァール川とネーデルライン川の二つの流路に分かれるが、ネーデルライン川は途中でレク川と名前を変え,北海に流入している。

砂丘平面図
砂丘平面図

 1950年代に入り、このレク川から取水するためライン・ケネマーラント水道会社を設立して、ニューエヘイン取水場から口径1500㎜と1200㎜の二本の導水管を布設し、1957年にハーレムの砂丘にレク川の水を送り人口の地下水を造ることになった。
 砂丘には巾20m、水深0.8m、池数40余りで総延長24.6㎞の浸透池をつくり、地下7mに集水管を布設して地下水を得る事にした。
 当初、レク川に隣接したニューエヘイン取水場で急速ろ過をして導水していたが、河川水が汚染され15時間程度で目詰まりを起こしたため、1974年からは塩化第二鉄で凝集沈澱、急速ろ過処理をして砂丘の浸透池に送水しこの問題を解決した。

緩速ろ過池上屋
緩速ろ過池上屋

 砂丘で濾過することにより、アンモニア、COD、色度を50%以上減少させる事が出来るようであるが、渡り鳥の飛来期には水鳥の糞害により、若干悪化することもあるようである。
 また、砂丘では滞留時間が2ヶ月~6ヶ月程度といわれており、レク川が取水制限になっても2ヶ月間は通常の給水体制で対処できるような水量を確保している。
このように、砂丘で濾過することは水質の改善と取水できない時の貯水池の役目も持つものである。
 ここで得た地下水は、レイドウイン浄水場で曝気と粉末活性炭の投入、緩速ろ過処理、更に硫酸バンドによる凝集沈殿、ろ過処理と塩素消毒により給水していた。
 ここまで処理をすると残留塩素0.1㏙を保つには、塩素処理0.7㏙で十分となるようである。

砂丘浸透池
砂丘浸透池

 このように河川水を取水して我が国で行われている凝集沈殿処理と急速濾過処理した水を砂丘に導水して地下水を作り、更に浄水場で緩速濾過処理と急速濾過処理をおこなっているような状態である。
 また急速濾過池も緩速濾過池も上屋の中にあり、寒冷な冬に対するそなえだと聞いたが、緩速濾過処理は生物処理であり、日光が必要だと思うが真っ暗な建物の中で浄化が出来るのかよく理解できなかった。
 このように、ライン川の最下流では原水を得るために工夫がされ、更に我が国の浄水処理の3倍以上の手間をかけていることには驚きを隠せなかった。       

栗田資夫